25年分からなかった数字の出どころが、30分で分かった
暗号の標準に使われている数値が、どう作られたのか分かっていませんでした。AIが短時間で生成方法を特定した、と発表されています。

この記事の結論
- 暗号の標準に使われる数値の出どころが25年分からなかった
- AIが30分足らずで生成方法を特定したと発表された
- 暗号が破られたわけではない
- 暗号の標準に使われる数値の出どころが25年分からなかった
- AIが30分足らずで生成方法を特定したと発表された
- 暗号が破られたわけではない
この秋はずっとAIが攻撃に使われる話を書いてきた。今回は逆方向の事例になる。
25年分からなかったこと
電子署名に使われる楕円曲線という仕組みがある。その曲線を決めるときにシードと呼ばれる数値が使われている。
この数値は2000年に米国の情報機関から標準化団体へ提供されたが、どうやって作ったのかが説明されなかった。
説明が無いと、疑いが残る。意図的に弱点を仕込んだのではないかという懸念が、25年以上にわたって議論されてきた。
当事者も思い出せなかった
報じられているところでは、提供した側の担当者は2015年に「英文を変換して作った」と記憶を語ったが、正確な手順は示せなかったという。同僚にも記録にも、答えは無かった。
作った本人が思い出せない。それだけ古い話になる。
分かったこと
発表によれば、AIが30分足らずで生成方法を特定した。
中身は、拍子抜けするほど素朴だった。1990年代のC言語の標準ライブラリに入っていた、簡単な乱数生成の関数を使い、1997年から1998年の日時を元にして回していた、というものだ。
再現できることを示すコードも公開されており、5つの標準曲線で方法が当てはまることが確認されたとされている。
どう見つけたか
解き方の筋道が面白い。当時の環境を想像するところから始めている。
- 1990年代なら、簡単な乱数生成器が使われた可能性が高い
- その種の生成器は、出力に特徴が残る
- シードの数値を区切って、連続した出力に見えるかを総当たりで調べる
報じられているところでは、10個のシードのうち4個で特定の位置のビットがすべてゼロという偏りがあった。偶然そうなる確率は極めて低い。そこから、内部の状態のうち上位だけを返す種類の生成器だと絞り込んだという。
やっていることは総当たりと、偏りへの気づきだ。人間にできない計算をしたのではなく、根気の要る作業を短時間でやったという形になる。
これは「破られた」話ではない
ここを取り違えないようにしたい。
- シードはもともと公開されている値。秘密の鍵ではない
- 新しい弱点は見つかっていない
- 利用者の鍵とは別のもの
むしろ逆方向の結論になる。生成方法がこれほど単純だったということは、意図的に弱点を仕込む余地が小さかったことを意味する。
つまり疑いが薄れた。25年の宿題が、そういう形で片付いたことになる。
分かっていないことも残っている
発表では、未解明の部分も挙げられている。条件に合う候補のうち、なぜ採用されなかったものがあるのか。一部の曲線や、基準点の選び方についても、説明がつかない部分が残るとされている。
全部分かったとは書いていない。この書き方は信用できると思う。
何が示されたのか
この件で示されたのは、AIが賢いことではないと思う。
示されたのは、「誰もやらなかった地道な調査」が、やれる値段に下がったことになる。
- 仮説を立てる
- 総当たりで確かめる処理を書く
- 外れたら、別の仮説に移る
どれも人間にできる。やろうと思えば25年の間に誰かができた。やられなかったのは、割に合わなかったからだ。
前日に書いた脆弱性の発見が2倍以上に増えた話と、同じ構造になる。見つける工程の手間が下がると、いままで放置されていたものが掘り出される。
片付く宿題は、まだある
「昔からそうなっているが、理由を知っている人がいない」というものは、どこにでもある。
- なぜこの設定値なのか
- この処理は何のために入ったのか
- 誰が決めたのか
こういうものを調べるのは、これまで割に合わなかった。その前提が変わりつつあるというのが、この件のいちばん実用的な読み方だと思う。
まとめ
- 暗号の標準に使われる数値の出どころが25年以上分からなかった
- AIが30分足らずで生成方法を特定したと発表された
- 方法は1990年代の簡単な乱数生成器に、当時の日時を与えたもの
- やったのは総当たりと、偏りへの気づき
- 暗号が破られたわけではない。むしろ弱点を仕込んだ疑いが薄れた
- 未解明の部分も残ると明記されている
- 示されたのは地道な調査が、やれる値段に下がったこと
出典
- 発表の内容、30分足らずという時間、1990年代の乱数生成器と1997〜98年の日時、5つの曲線での再現、未解明の部分については、CNET Japan(2026年10月18日配信)の報道による。元はAnthropicが2026年10月16日に公表したもの
本記事は報道に基づくもので、筆者が再現を確認したものではない。本記事は法的な助言ではない。
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