「動作についての改善」と書かれた更新が、鍵の修正だった
車検証閲覧アプリの脆弱性が公表されました。調べると修正版は39日前に出ており、更新内容には「動作についての改善」としか書かれていませんでした。

この記事の結論
- 修正版は公表の39日前に出ていた。更新内容は「動作についての改善」だけ
- 漏れる可能性があったのはAPI連携用のアクセスIDとアクセスキー
- 鍵はすでに無効化済み。JVNが「悪用することはできません」と書いている
- 修正版は公表の39日前に出ていた。更新内容は「動作についての改善」だけ
- 漏れる可能性があったのはAPI連携用のアクセスIDとアクセスキー
- 鍵はすでに無効化済み。JVNが「悪用することはできません」と書いている
国土交通省の「車検証閲覧アプリ」に脆弱性があったことが、2026年10月15日に公表された。JVN#94004488、CVE-2026-75559だ。
結論から言うといま慌てる話ではない。ただ、調べていて別のことが面白かったので、そこを書く。
まず、何が起きていたか
JVNの説明はこうなっている。
国土交通省が提供する「車検証閲覧アプリ」には、車検証を扱う事業者向けに車検証情報を提供するための、API連携機能が実装されています。このAPI連携の仕様において、次の脆弱性が存在します。
分類は「送信データへの機微な情報の挿入」(CWE-201)。漏れる可能性があったのはAPI連携用のアクセスIDとアクセスキーだとされている。
対象はAndroid版とiOS版の ver.6.2.0 およびそれ以前。PC版は入っていない。
「実装」ではなく「仕様」と書いてある
ここは読み飛ばしやすいが、意味が違う。
- 実装の不具合 — 書き間違い。直せば終わる
- 仕様の問題 — 設計がそうなっていた。決め方から直す必要がある
JVNは「API連携の仕様において」と書いている。つまりそういう作りだったということになる。
深刻度と、いまの状態
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CVSS 4.0 基本値 | 6.9 |
| CVSS 3.0 基本値 | 5.3 |
| 公開日 | 2026年10月15日 |
| 報告者 | 井尻 翔 氏(IPAへの届出) |
そしてJVNは、対策の欄ではっきり書いている。
開発者はAPI利用事業者に対して新しいアクセスIDおよびアクセスキーを発行するとともに、漏えいする可能性があるアクセスIDおよびアクセスキーを無効化しています。そのため、本脆弱性を悪用することはできません。
鍵を作り替えて、古いほうを止めてある。ここまで書いてくれる公表は珍しい。読む側としてはありがたい。
気になって、修正版の日付を調べた
JVNは「最新版へアップデートしてください」と書いている。では最新版はいつ出たのか。
国土交通省の特設サイトに、答えがあった。2026年9月7日の告知だ。
<リリース後のバージョン>
iOS版:6.2.0 ⇒ 7.0.0
Android版:6.2.0 ⇒ 7.0.0
PC版:3.2.0(変更なし)
JVNが対象としたのは「6.2.0およびそれ以前」。その次に出たのが 7.0.0 だ。
念のためApp Storeの公開記録も確認した。7.0.0 の公開日は2026年9月6日(日本時間で9月6日の夕方)になっていた。
つまり修正版は、公表の39日前に出ていた。
更新内容に何と書かれていたか
ここが、今回いちばん覚えておきたい点だった。国交省の告知にある更新内容は、これだけだ。
<主なアップデート内容>
①アプリの動作についての改善(iOS版・Android版)
App Store側の説明も同じだった。「以下の更新を実施いたしました。・アプリの動作についての改善」。
セキュリティという言葉はどこにも出てこない。鍵のことも、API連携のことも書かれていない。
なぜ書かないのか
隠していたと決めつける話ではないと思う。順番に理由がある。
- 直った人が増えるまで、手口を書けない。先に公表すると、更新していない人が狙われる
- 日本の届出の仕組みがそうなっている。IPAに届け出て、JPCERT/CCが開発者と調整し、対策ができてから公表する
- 事業者に新しい鍵を配る時間が必要だった
今回はその流れがきちんと動いている。先に直し、鍵を替え、古い鍵を止めて、それから公表した。
だから公表の時点で危険は小さい。脆弱性の公表が増えている話を前に書いたが、公表された時点では多くが対策済みという点も同じだ。数が増えること自体は、悪いこととは限らない。
読む側として引ける教訓
単純だが、効く。
「動作についての改善」と書かれた地味な更新ほど、入れておく。中身が書かれていないことがある。
今回は強制アップデートになっていた(8月24日に予告されていた)ので、使っている人はすでに 7.0.0 になっている可能性が高い。念のため確認するなら、ストアでバージョンを見るだけでいい。
作る側として:鍵をアプリに入れるとバレる
CWE-201は、名前のとおり「送るデータに、送る必要のない機微な情報が入っている」という分類だ。
そしてアプリの鍵の話は、避けようがない原則に行き着く。
アプリは利用者の端末で動く
だから、こうなる。
- 通信の中身は見られる。端末の持ち主なら、何を送っているか確認できる
- アプリの中身も見られる。埋め込んだ文字列は取り出せる
- つまり、アプリに置いた秘密は秘密ではない
これは腕の問題ではない。置き場所の問題だ。
ではどこに置くか
- 鍵はサーバーに置く。アプリは自分のサーバーを呼び、サーバーが外のAPIを呼ぶ
- アプリに渡すのは利用者ごとの、期限付きの通行証にする。漏れても範囲と時間が限られる
- すぐ止められる形にしておく。今回、鍵を無効化できたから被害が止まった
3番目は実際に効いている。止められる作りだったことが、そのまま結果になった。
置き場所の話は、今月すでに2回出てきた。暗号化していたのに読まれた件は鍵がデータと同じ場所にあった。183万件が出た件は盗まれたものが鍵だった。
守りたいものと鍵を、同じところに置かない。今月の3件で共通しているのはそこだけだ。
まとめ
- JVN#94004488 / CVE-2026-75559。2026年10月15日公表
- 対象はAndroid版・iOS版の ver.6.2.0 およびそれ以前。PC版は対象外
- 漏れる可能性があったのはAPI連携用のアクセスIDとアクセスキー
- JVNは「仕様において」と書いている。実装の書き間違いではない
- 鍵は作り替えて無効化済み。「悪用することはできません」と明記
- 修正版 7.0.0 は9月6日公開。公表の39日前に出ていた
- その更新内容は「アプリの動作についての改善」だけだった
- 作る側の結論は1つ。鍵をアプリに入れない
出典
- JVN#94004488「『車検証閲覧アプリ』における送信データへの機微な情報の挿入の脆弱性」(公開日2026年10月15日。対象バージョン、CWE-201、CVSS値、鍵の無効化、報告者)
- 電子車検証特設サイト「車検証閲覧アプリ(iOS版・Android版)最新バージョンリリースのお知らせ」(2026年9月7日。6.2.0から7.0.0へ、更新内容、強制アップデートの記載)
- 7.0.0 の公開日と更新内容の文面は、筆者がApp Storeの公開情報(iTunes Search API)で2026年10月20日に確認した(公開日2026年9月6日)
本記事は2026年10月20日時点の公表内容に基づく。鍵の無効化はJVNの記載による。最新の情報はJVNと国土交通省の告知で確認すること。本記事は法的な助言ではない。
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